『第96回アカデミー賞』(現地時間10日)で視覚効果賞を受賞した映画『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督(監督・脚本・VFX/59)、渋谷紀世子さん(VFXディレクター/53)、高橋正紀さん(3DCGディレクター/55)、野島達司さん(エフェクトアーティスト・コンポジター/25)が12日、羽田空港で『「ゴジラ-1.0」アカデミー賞受賞記者会見』を開きました。
また、各局の朝の情報番組に出演し、インタビューに答えていました。
番組の中で紹介される彼の仕事ぶりに、まさに現代の最先端を行くリーダーシップを見た気がしたので、それについて記していきます。
邦画が『視覚効果賞』を受賞するという一大事
視覚効果賞は、数100人というスタッフと、少なくとも100億以上の製作費を投じてCGを駆使した作品でないと獲得できない。
つまり、ハリウッド映画の独断場だったと言える。
しかし、” ゴジラ -1.0 " は、35人のスタッフと、15-20億と言われる製作費でこれを成し遂げてしまった。
これを快挙と言わずして何と言おうか、という世界である。
ちなみに、代表的な受賞作の製作費は次のようになっている。
●ザ・クリエイター 8000万ドル(120億円)
● ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー3 2.5億ドル(375億円)
● ミッション:インポッシブル/デッドレコニング 2.91億ドル(436億円)
● ナポレオン 2億ドル(300億円)
CGに関わるスタッフの数は、通常300-500人、多いもので1000人を超えることもあるという。
日本の生産性が著しく低い、という話題が昨今あちこちで目につくが、" ゴジラ -1.0 " の快進撃は、それを覆す好事例だろう。
私は、その秘密が山崎監督のリーダーシップにあるように思えてならない。
山崎監督はいじられキャラ?
受賞後の会見で、山崎監督の人柄や、スタッフとの関係性が垣間見えるシーンがいくつかあった。
授賞式で同賞のプレゼンターは、アーノルド・シュワルツェネッガーとダニー・デビートが務めていたが、山崎監督が、
「シュワルツェネッガーさんからオスカー貰いたかったんですけどね」
と半分冗談交じりにコメントすると、続いてコメントした高橋氏と野島氏が二人とも
「僕はシュワルツェネッガーさんからもらいましたけどね」
と、監督を揶揄するような冗談を飛ばしていた。
また、野島氏は、監督の若干たどたどしい感じだった英語のスピーチにも、ちょっと笑いながら言及したところ、監督が
「なんでそんな笑いなんだよ!」
と突っ込むシーンも見られた。
英語のスピーチについては、後からサプライズで登場した浜辺美波も
「監督の素晴らしいスピーチが・・・」
と言ったところで、監督が
「うるさいわ!!」
と遮って会場の笑いを誘っていた。
これらのシーンを見ていて私が感じたのは、仕事場での心理的安全性が徹底的に保証された現場だったんだろうな、という事である。
スタッフや出演俳優が、監督に対して公の場で茶化すようなコメントができる、そんな撮影現場はそうそうないんじゃないだろうか?
でも、そういう現場だからこそ、映画作りに関わる一人一人のメンバーが、いい映画を作ろう!という意識で取り組めるのではないか?という事を強く感じた次第である。
” ゴジラ -1.0 " のVFX現場
" ゴジラ -1.0 " のVFX作業場は、上のキャプチャー画像のようになっている。
壁に向かって一列に作業者が並んでいて、監督はそれぞれの作業者の隣へ椅子に座ったまま入り込み、ああだこうだ、と議論を重ねて進めていく。
監督みずから作業している人のところを回って歩くのだ。
これも、プライド高い” 俺が監督だ! " タイプの人だったら絶対実現しないだろう。
こういう、常識や既存概念にとらわれずに行動できることが、けた違いに少ない人員と予算で優れたものを作り上げることが要因なのではないかと思う。
監督としての実力
もちろん、いじられキャラ、愛されキャラだけではすぐれた作品を作り上げることは不可能だろう。
会見で野島氏は、受賞の理由について、
「やっぱり映画としておもしろい、というのは大事な要素だと思います」
と述べている。
” ゴジラ -1.0 " が、完成された一本の映画として高いクオリティで仕上げられているからこそ、の視覚効果賞という事だろう。
このことは、うなぎ登りのアメリカでの観客動員数を見てもよくわかることである。
いじられキャラ、愛されキャラでメンバーの力を最大限に引き出し、なおかつ全体を高いクオリティにまとめ上げる指導力を発揮する、そんな山崎監督は、現代の理想とされるリーダーシップを体現する、とてもわかり易い例なのでは、と思わずにはいられない。