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2 武蔵小山商店街から林試の森へ

武蔵小山駅から林試の森周辺、武蔵小山商店街周辺の住宅散歩ツアーが行われました。明治時代に林業試験場としてつくられた豊かな森は、平成元年に都立林試の森公園として一般に開放され、周辺住民の憩いの場となっています。散策したエリアは、90年代から2000年代にかけて作られた建築家の設計による都市住宅や集合住宅を外観から見学しました。

特に有名な建築があるわけでもない今回のコースで、参加者が集まるかどうか心配していましたが、ふたを開けてみると定員を超える応募があり抽選で8名の方が選ばれました。ところが当日キャンセルが3名出て、参加者は結局5名となりました。それが逆に参加者も質問しやすい空気ができ、私も気軽にお話しすることができました。

最初に林試の森近くの都市住宅を2軒見学。どちらも最近人気の建築家の設計した都市住宅で、狭小敷地における窓のデザインや、内部の間取りの工夫やなどを解説。また、どのような建築家に影響を受けているかなど、建築家の系譜の話も聞いていただきました。

次に集合住宅を2軒、1軒目は林試の森に面していて森側から見て、そのあと反対の道路側からも見ました。外観は箱型ですが、内部の壁を大胆に斜めにして、階ごとに森に開いたり、南の道路側に開いたりするプランを解説。2軒目は建物の真ん中の通路を街に開放して、私有地でありながらだれでも通っていいよという作りになっている集合住宅。これには参加者一同「面白い!」との声を聞くことができました。

そのあとはベテラン建築家による木造の個人住宅、パブリックゾーンを塔状にして、プライベートゾーンをL字で囲いスノコの廊下でつないだ構成を解説。最後に女性建築家による集合住宅で、立体的な中庭を中心にランダムに部屋を組み合わせたものを見学しました。

帰りにアントニン・レーモンド設計による星薬科大学の正面アプローチの前を通りましたが、銀杏並木の紅葉のきれいさに一同感動して、武蔵小山商店街を通って武蔵小山駅にゴール。天気もよく、1時間50分、約1万歩のツアーが無事終了しました。かなりマニアックな内容だったにもかかわらず、参加者の皆様には楽しんでいただけたようで、良いツアーのひとときとなりました。

ナビゲーター:徳田英和(徳田英和設計事務所)

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武蔵小山駅に集合し、最初にナビゲーターの徳田さんから、ツアーのルートなどの概要の説明がありました。このツアーは当初の予定とは逆周りで、まず林試の森の方向から巡っていきました。

最初の目的地は、千葉学設計の個人住宅でした。ファクター エヌ アソシエイツから独立してすぐの2001年の作品で、縦に開放感のある住宅です。次に見たのは、塚本由晴と貝島桃代夫妻の建築家ユニット、アトリエ・ワン設計の住宅でした。狭い敷地ながら、天井高を変え、いきいきとした空間を目指しています。そこから林試の森公園に入り、園内を西から東に縦断していきました。林試の森の中から見えたのが、建築家ユニット武井誠と鍋島千恵TNAによる作品で、斜めの界壁やガラスによって変化のある集合住宅になっています。林試の森を抜けると、小川俶治設計の住宅がありました。敷地の傾斜などに合わせた天井などが興味深かったです。次に谷内田章夫/ワークショップ設計の集合住宅PASSAGGIOに向かいました。PASSAGGIOとは、小路というような意味であり、集合住宅の中央を地域に開放した通路が貫通しているつくりでした。室伏次郎設計の住宅は一番高い部分が塔状になっており、その周りをスノコの廊下でつないだ構成です。田口知子設計の集合住宅は、共用部分を立体的に配置して、風、光、視線が通り抜ける空間になっていました。

最後の目的地はアントニン・レーモンド設計の《星薬科大学》です。新型コロナウイルス感染症対策のため構内には入れませんでしたが、外から見える意匠や構造、レーモンドについてなど、徳田さんから解説がありました。日本一長いアーケード商店街である、武蔵小山商店街パルムを通り抜けて武蔵小山駅に戻り、まとめの話をして解散しました。

ピックアップした作品以外にも、道々の面白い家を数軒見つけ、立ち止まって玄関などの配置について語ったりしました。観光とも一人で散歩するのとも違った、建築に興味のある人どうしで歩くからこその発見があったと思います。

アシスタント:三上佳祐(慶應義塾大学)