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5 大井ふ頭中央海浜公園のスポーツ施設

2020東京オリンピックの競技会場として、東京には新国立競技場、有明アリーナ、有明体操競技場、東京アクアティクスセンターなどの新しい施設が誕生した。品川区内にも実はある。大井ホッケー競技場である。建築の専門誌にも採り上げられていないのだが、せっかくだから見に行こうということで、これを含む大井ふ頭中央海浜公園のスポーツ施設をめぐるツアーを企画してみた。

勝島橋のたもとに集合してスタート。大井埠頭が埋め立てられた経緯などを説明しながら、公園の中へと入っていき、大井ホッケー競技場のメインピッチへ。フェンス越しではあったが、長く延びる片持ちの庇の構造や、周囲の樹木を意識したスタンド裏のデザインなど、ポイントを解説する。

続いて大井ホッケー競技場サブピッチ、そして品川区の外にはみ出てしまうが大田スタジアムへ。少年野球の歓声を聴きながら脇を抜けて、公園西の夕やけなぎさの側へと回る。こちらからは京浜運河越しにもうひとつのスポーツ施設、大井競馬場1号スタンド L-WINGが遠望できるのだ。疾走する競走馬と騎手の姿から発想した大屋根の美しい形とともに、水辺のパノラマ景観を堪能する。こんなに空が広く感じられるところは、東京でもなかなかないのではないか。

このツアーにはもうひとつのテーマがあって、それは野外彫刻である。東京都は平成2年度から野外彫刻の事業を進めており、それがこの公園にも設置されているのだ。コースの途中にある、多田美波「翻」、土谷武「遠くがみたい」、建畠覚造「波貌」、加藤昭男「南の空へ」、脇田愛二郎「HELIX」、一色邦彦「碧翔」の6作品を鑑賞。設置する場所の特性をそれぞれに汲み取り、作品に反映させていることがうかがえた。

好天に恵まれ、外を歩くことの楽しさを満喫できた2時間であった。

ナビゲーター:磯 達雄(東京建築アクセスポイント)

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東京モノレールの大井競馬場前駅で下車し勝島橋を渡ると、東側に大井ふ頭中央海浜公園があります。この公園は、1970年代にオイルショックの影響で工場計画がなくなり、その代わりに造られたものです。現在は、野球・テニス・陸上競技場などの施設が集まっている「スポーツの森エリア」と、釣り・バーベキュー・バードウォッチングが楽しめる「なぎさの森エリア」があります。今回はこの公園内を散策しました。

まず、東京オリンピック・パラリンピック2020で使用予定の《大井ホッケー競技場》(梓設計、2019)に行きました。梓設計は、全国各地の空港や埼玉スタジアム、NHK放送センター、そして新国立競技場の建設にも携わった組織系建築設計事務所です。この競技場は、スポーツ観戦の邪魔にならないよう柱の数を減らし、風通しの良さにも配慮して設計されています。また、「ウォーターベース人工芝」という短いタイプの芝を日本で初めて使用しており、ボールの滑りの良くなる点が特徴です。

この公園の別の楽しみ方として、野外彫刻鑑賞が挙げられます。バブル期に東京都の計画により設置された野外彫刻が、各所に置かれています。8つの内、6つの彫刻を見ることができました。《翻》(多田美波、1992)と《波貌》(建畠覚造、1991)は、どちらも鏡のように反射する作品でした。《波貌》は、波打つ様子が曲面により表現されており、見る角度によって見え方が変化する点が興味深かったです。《遠くがみたい》(土谷武、1992)は、赤い額縁とベンチが一体になっている作品で、そこに座って額縁の中に広がる風景を眺められるようになっていました。《南の空へ》(加藤昭男、1991)と《碧翔》(一色邦彦、1991)は空に向かって鳥と人間が飛び立つ様子を表しており、青空によく映える作品でした。《HELIX》(脇田愛二郎、1991)は三角形を組み合わせた彫刻であり、太陽の光に照らされて輝いて見えました。

また、「なぎさの森エリア」を歩きながら京浜運河の向かい側を眺めると、《大井競馬場1号スタンドL-WING》(松田平田設計、2003)が見えました。騎士と馬が駆け抜ける姿を模したと言われている白い屋根が特徴的で、周りに高い建物がなく、この地域のランドマークとなっていました。

参加者の皆さんは、メモを取りながら先生の話に熱心に耳を傾け、写真に撮って記憶に留めているようでした。暖かな日和の中、自然豊かな公園で、新鮮な空気に触れることができた気がします。

アシスタント:舟山織沙(慶應義塾大学1年)