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3 文庫の森から品川区役所へ

今回のツアーでは、住宅街のなかにある普段目にしていても気づかず日常の風景に同化している近代建築にフォーカスして、その歴史的背景や建築的特徴を観察するものでした。これまで注目されて来なかったものも多いため、設計者など未だ不明な点も多く、それゆえ想像力を掻き立てる建築が多かった。建てられた年代やデザイン、素材の特徴からその背景を考察するなど、参加者とともに建築を見る楽しみ方を共有できたのではないだろうか。

出発地点である文庫の森に佇む旧三井文庫第二書庫は、我が国における鉄筋コンクリート造建築の黎明期に建てられた、現存する最古の壁式鉄筋コンクリート造建築として知られている。※1ツアーには、元区役所営繕課に勤められていた方も参加されていたため、より深いお話を聞くことができ、充実度合いを高める要因にもなった。

当日は文庫の森から戸越公園、日本音楽高等学校経由で品川区役所まで合計8つの建築を見ながら住宅街を散策した。戸越公園は、新しいものだが本格的に作られた薬医門と冠木門があり、見比べながら学べる好スポットでもある。日本音楽高等学校では、分離派のデザインがみられる1号館のほか、戦後のインターナショナルスタイルのデザインで設計された6号館なども見るべき建物として今回取り上げた。品川区浴場会館は公衆浴場組合のための施設で、ユニークな近代和風建築だがこれまで知られることが無かった。到着地点の品川区役所は、戦後の市民社会を象徴した広場を中心とした配置のモダニズム建築であり、参加者が美しい大型のタイルを触れながら感じ取っていた。区役所から覗くことができる東京総合車両センターの赤煉瓦の建築は、建お召し列車が格納されているなど、その用途も興味深い。

参加者の方々からの質問も多く、コミュニケーションを取りながらの散策することができ、コロナ禍のため建築内部を見学することが叶わなかったが、十分に楽しめたのではないかと思う。

注記 ※1.近年の調査でさらに古い壁式鉄筋コンクリート造建物が発見されている。

ナビゲーター:平井充(メグロ建築研究所)

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さわやかな秋晴れの朝、集合場所の文庫の森に参加者の方々が集合。今年は異例の検温と健康チェックシートのご記入をお願いし、皆さんの健康状態が良好であることを確認後、ツアーを開始しました。まずは見どころの一つである旧三井文庫第二書庫。講師の平井先生は、この書庫の建築的価値に加え、書庫としてこれだけ立派な建物を建てた三井の財力の凄さにも触れられました。

次に戸越公園の薬医門と冠木門。こちらは公園の門として平成になってから新築されたものですが、伝統建築の技術の継承として価値のあること、同じ公園内で薬医門と冠木門を比較して見られることなど、普段は景色の一部としてしか見ていなかったりするものでもきちんと説明をして頂くと新たな発見があり、これこそがオープンしなけんの意義であり、楽しさだと思いました。

日本音楽高等学校6号館を経て1号館へ。昨年は内部も見学できましたが、今回は外からのみの見学でした。平井先生の解説では、この建物の設計者は不明ではあるが、分離派建築会にみられるようなドイツ表現主義の影響がうかがえるユニークなデザインとのことで、ちょうど汐留ミュージアムで開催されている分離派建築会の展示会にも行ってみたくなりました。

続いて品川区浴場会館では近代和風建築について、また品川区役所では近代建築の条件を備えた公共建築であること、使用しているタイルは今ではとても高価で手に入りにくいこと、そして最後に訪れた東京総合車両センターレンガ造建物では、関東大震災に耐え、現在でも使用されているほど強固な建物で、当時の建築技術の高さについてのお話がありました。

街歩きには最適な気候でしたし、参加者の方々は平井先生の多岐にわたるわかりやすい解説にとても熱心に耳を傾け、ツアーを楽しんで頂けたようで、コロナ禍でもオープンしなけんを開催できたことは本当に良かったと思いました。

アシスタント:葛生知佳子(社会人スタッフ)