Report

オープンしなけん2019 Vol.2を振り返って

ロンドンをはじめ、パリ、ニューヨーク、バルセロナなど世界の大都市では「オープンハウス」と呼ばれる建物公開イベントが開催されています。最も古い歴史を持つ「オープンハウスロンドン」は26年も続いています。日本ではようやく2014年から「イケフェス大阪」が、2015年から「ひろしまたてものがたりフェスタ」が公開イベントを開始しました。どちらも最初は行政が主体となり、地域にある魅力的な建物を広く一般に公開することを目的にしています。私は先駆的な事例としてこれらを訪ね、関係者にヒアリング調査をおこない、成功の秘訣やその特色を探りました。

大中小のイベント比較
「オープンハウスロンドン」は始まったばかりの「オープンしなけん」とは比べ物にはならないほど巨大な規模です。2019年の報告書によれば、2日間の開催で、公開建物数とイベント数813、ボランティア数7千人、参加者数36万人を誇っています。最も来場者数の多かった建物は《Foreign & Commonwealth Office》(外務・英連邦省)で、2日間で13,425人が訪れています。
(参照:https://open-city.org.uk/assets/Uploads/OPEN-HOUSE-REPORT-2019-WEB-11.12.19.pdf

日本最大規模の建物公開イベント「イケフェス大阪」も同様に2日間の開催です。公開建物数169、ガイドツアーなどのイベント数223、ボランティア数118人、参加者数延べ5万人、最も来場者数の多かった建物は《青山ビル》で3,738人。事前申込プログラム数77、平均倍率3.3倍、最も人気だったのは《旧網島御殿スペシャルツアー》の19.2倍とのことでした。
(参照:https://ikenchiku.jp/news/2877/

それでは「オープンしなけん」はどうでしょう。まず1日限りの公開という点で上記二つとは大きく異なります。そしてまだ2回目の開催です。公開建物数12、ガイドツアーなどのイベント数21、ボランティア・サポートスタッフ数38人、参加者数延べ1500人、最も来場者数の多かった建物は《有時庵》の321人。事前申込プログラム数21、平均倍率4.2倍、最も人気だったのは《土浦亀城邸ガイドツアー10:00-11:00》の18.7倍でした。

建物別参加者数
イベント別参加者数

アンケートから見る参加者の属性等
イベントに参加した方を中心にアンケート調査を行ないました。来場者全体の3割に当たる455人にご協力いただきました。

(1)年代
半数以上(57%)が40代、50代でした。20代、30代の層が初回に比べ、増えていることがわかりました。(20代以下13%、30代16 %、初回は20代8%、30代11%)。オープンしなけん公式ホームページを開設したことなどインターネットでの情報周知を充実させたことが功を奏し、20代以下の若年層や30代にも情報が届いたのではないかと推測します。

(2)居住地
品川区のイベントにも関わらず、区外からの参加が全体の7割以上を占めています。これは前回も同様の割合でした。さらに区外の中でも「都外」という項目を新たに設けたところ、28%が東京都外からの参加であることがわかりました。例えば、「応募に当選したので関西から来ました」というツアー参加者に聞いたところ、「イケフェス大阪」にも参加しており、公開イベントに対する熱い情熱を感じました。彼らは熱烈な建築愛好者で、都合がつく限り日本各地の建築公開イベントに参加しています。

(3)誰と参加したか
「一人で参加」が全体の半数以上(53%)であることがわかりました。「友人と」が26%、「家族と」が19%でした。結果が示すように一人でも参加しやすいのは、ツアーなどのイベントを通じ参加者同士が仲良くなるケースがみられるからです。

(4)職業
建築関係者の割合がどれくらいなのかを把握するため、職業の項目を作りました。ただし「建築関係者」「建築関係外」「学生」という3項目のみです。結果として「建築関係外」が約6割(59%)であることがわかりました。東京建築アクセスポイントが通常行っている建築ツアーでも企画内容によっては7割以上が「建築関係外」の場合もあります。近年、カーサブルータスなどの一般雑誌で建築が取り上げられる機会が多くなり、一般の人も建築を身近なものとして捉え、関心を持つようになったのでしょう。

(5)参加回数
「初めて」の参加が75%であることがわかりました。「オープンしなけん」の認知度がアップしたといってよいでしょう。2回目のリピーターに対しても、新たな公開場所を増やし、楽しんでもらえるようにしました。

(6)満足度
「大満足」39%、「満足」52%を合わせると、91 %が満足していることがわかりました。前回も95%という数字でした。なお「1日ではまわりきれない」「抽選に全部外れてしまったので機会を増やして欲しい」などの意見もありました。

回目の「オープンしなけん」を実施して
「オープンしなけん2019 vol.2」は、2019年3月9日に開催した第1回目からまだ半年余りで2回目の開催となりました。その間、現地調査を複数回行い、建物所有者へのヒアリング調査を重ね、合意を得て、実現に至りました。「オープンハウスロンドン」「イケフェス大阪」などを参考にしつつも、自分たちの立ち位置や独自性を模索しました。肩肘張らず、無理のないようイベントを実現させることに尽力しました。今回初めて試みたことは、「公式ホームページの開設」と「インターネットでの申込受付」と「ボランティアスタッフの公募」です。チラシやガイドブックなどのビジュアルに関しては、ロゴの色を黄色から青色に変え、ロゴが定着するよう試み、参加者全員にはロゴの入ったバッジをプレゼントしました。

公開イベントの目玉は、日本のモダニズム界の伝説的存在である《土浦亀城邸》の見学会です。建築家土浦亀城が亡くなった後も一般には公開されずに使い続けられた、戦前の優れたモダニズム建築です。インターネットの効力で情報が周知され、15名の定員の枠のところ200人前後のお申し込みがあり、計4回のツアーで約1000人近い応募がありました。しかし申込アプリに問題があり、混乱をきたしたことは次回への反省点です。当選したにもかかわらず、病気や急な都合で致し方なくキャンセルされる方も数名おりましたが、当日何の連絡もなく欠席されるケースがみられたことは残念です。また、ボランティアスタッフのために、別日に土浦邸の見学会を設けたのは、「イケフェス大阪」や「オープンハウスロンドン」を参考にしてのことです。

東京建築アクセスポイントが案内する「魅力発見ツアー」も3つから4つに増やしました。「はじめて学ぶアントニン・レーモンドの建築」は一番人気で200人近い申し込みがありました。《カトリック目黒教会(聖アンセルモ教会)》と《星薬科大学》の内部見学を行いました。満足度の高さは、参加者14名のうち「大満足」10人、「満足」4人という結果から伺えます。

事前申込が必要なイベントは、ほとんどが定員を超えたため抽選となりました。しかし抽選に漏れた人も楽しめるよう、当日自由に見学ができる場所を前回の8箇所から12箇所に増やしました。他の公開イベントと比べ、公開場所の数は少ないながらも「オープンしなけん」の独自性を打ち出した点は、二つを対にして見ることをガイドブックで促した点です。《品川バプテスト教会》と《大井バプテスト教会》、《寄木神社》と《雉子神社》、茶室《有時庵》と《松滴庵》、など二つを組み合わせて見学すると、自ずと見えてくるものがあったのではないでしょうか。また、ヒアリング調査を通じ、建替え予定の建物がわかり、公開イベントに加えました。

前回も一番人気だった、磯崎新が設計した現代茶室《有時庵》には321人の来場がありました。《寄木神社》は2時間だけの公開でしたが、149人の来場者がありました。1時間当たりに換算すると74名の来場ということになりますが、その間に団体客が訪れたことが数字に反映されています。《品川バプテスト教会》は2回目の公開でしたが、アンケート上では唯一「建築関係者」が「建築関係者外」を上回る結果となりました。設計者の天野太郎や吉原正の設計事務所のOBらが来場し、元牧師の日隈氏と交流を図るようになったそうです。フランク・ロイド・ライトの弟子として知られる天野太郎ですが、《品川バプテスト教会》ではライト風のデザインは影を潜め、北欧的な雰囲気を感じます。天野と吉原が《品川バプテスト教会》設計時に北欧へ視察旅行に出かけていることがOBの証言により明らかとなりました。このように建築イベントの開催がきっかけで、過去の資料が発見されたり、人と人とがつながることによって新たな史実が浮かび上がってきたり、一定の成果がみられることは大変嬉しいことです。

建物公開イベント「オープンしなけん」は、建物所有者および関係者、そしてボランティアスタッフの協力なしには成し遂げることはできませんでした。特に当日のスムーズな運営にはスタッフの存在と彼らの爽やかな笑顔が欠かせませんでした。責任を持って担当場所の運営に関わってくれた彼らのレポートを是非ご拝読ください。

「オープンしなけん」はまだ始まったばかりです。他の建築公開イベントとは規模が異なります。私たちは品川らしい規模で、品川にある建築の魅力を発見し、発信していくことを精一杯やっていきたいと思います。建物自体も、このようなイベント自体も、継続していくことが重要です。引き続き、品川区と連携を図りながら、現地調査と魅力発信の活動を両輪で進めてまいります。

レポート:和田菜穂子(東京建築アクセスポイント代表)